同じころ、陸軍の内部にもこの事件に疑問をもつ男がいた。この事件の捜査を主導した参謀本部情報部の新任部長マリ・ジョルジ=ピカール大佐である。
ピカールは、裁判後も引き続きドレフュスの犯行を決定付ける証拠探しを命じられていたのだが、調査を行うとむしろドレフュスが犯人である可能性は低いように思われた。
ピカールは独自に、真犯人捜しを開始した。すると、ピカールが在籍する情報部の部下、アンリ少佐に怪しい点があることがわかった。
アンリはこのドレフュス事件の捜査を行った中心人物の一人で、裁判でベルティヨンの名を出して、ドレフュスと筆跡が一致すると証言した人物であった。
調べてみると、アンリはドレフュスが犯人とする情報が正式に公表される前から、ドレフュスが犯人だとする情報をフィガロ紙などの保守系新聞にリークしていたことも明らかになった。しかし、アンリが直接手を下したとする証拠は見つけられなかった。
一方、ピカールはドイツ大使館でゴミ箱から機密情報を発見した掃除婦にも注目していた。
ドイツ大使館のゴミ箱が機密情報の発見元であることは公には伏せられていた情報だったため、武官のゴミを引き続き調べれば何かわかるのではないかと考えたのだ。
掃除婦から武官のゴミを取り寄せ、ピカールと部下は引きちぎられた紙類のゴミの全てをつなげ合わせて復元させる作業を開始した。
この作業を丹念に行ってみると、武官はフランス陸軍内部のある人間から暗号形式の手紙(この手紙はのちに「プチ・ブルー」と呼ばれるようになる)を受け取っていることが明らかになった。
調べてみるとドイツの武官に手紙を送っていた人物はフェルディナンド・ヴァルサン・エストラジーという名の陸軍少佐のものであることが判明した。