エストラジーはアンリと同じく情報部の人間であり、アンリの部下にあたる人間だった。
これでアンリとエストラジーのラインがつながった。
アンリは当初からエストラジーの犯行であることを知っていたのではないかと考えられた。そして、反ユダヤ感情が高まっている世論が飛びつきそうな人物、ユダヤ系であるドレフュスを犯人に仕立て上げることでエストラジーの犯行を隠蔽しようとした可能性が高かった。
エストラジーの身辺調査を行うと、借金で首が回らない状態になっていたこともわかった。金に困り、軍事機密をドイツに売り渡していたことが考えられた。
エストラジーの筆跡を問題となった書類の筆跡と見比べてみたところ、これが一致した。
ピカールはさらに確証を得るために万全を期した。
エストラジーの筆跡と事件の書類をベルティヨンの元に持ち込み、誰の者とも言わずに鑑定を依頼した。すると、ベルティヨンはこの2つの筆跡を完全に同一なものと鑑定した。
ベルティヨンの筆跡鑑定の腕前が信頼に足る物であるかは疑問であるが、裁判で有力な根拠となった鑑定である。エストラジーの犯行を裏付ける証拠とするには十分なものであった。