ピカールはこのことをゴンス将軍に報告した。すると、ピカールが想像もしなかった答えが返ってきた。
「このことはドレフュスの件と切り離して考えねばならぬ」ゴンス将軍はそう答えたのである。
ピカールはあっけにとられた。どうして同一事件の真犯人がわかったのに、ドレフュスと別個にしようとしているのか訳がわかならなかった。
しかし、ピカールはすぐに将軍が陸軍の威信を守るため、事件を闇に葬ろうとしていることに気づいた。
ピカールはこれに反論することは出来なかった。陸軍は自分にとっても守るべき居場所でもあり、同僚を危険にさらすようなことは避けたいという思いもあった。ピカールもまた、1人の軍人に過ぎなかった。結局この意向には逆らえず、自分の胸にしまっておくことにした。
しばらくすると、ピカールに配置転換の命令が下った。配置転換先はチュニジアの紛争地帯だった。
陸軍の上層部はピカールの存在を危険だと判断し、紛争地帯に送りこんだのであった。あわよくば紛争の渦中でピカールが命を落とすことを狙った配置転換の命令だった。
当のピカールは、事前にゴンス将軍からの直々の連絡を受け、当地で自分がいかに必要とされているかを懇々と説明されていたため、特に不審に思っていなかった。
チュニジアにきてしばらく経った頃、フランス国内の参謀本部でスパイ行為を行っている人物として、自分の名が取り沙汰されていることを耳にした。
ピカールはこの話の調査を行った。すると自分が所属していた情報部、それもアンリが主導している話であることがわかった。
しかも、上層部はこのアンリの策略を知っていながらもわざと放置していることも判明した。陸軍が組織ぐるみで自分を葬ろうとしている事実を知り戦慄を覚えた。
さらに、ピカールの元に殺害予告ともとれる脅迫文が届くようになった。