警察の発表と裁判でモースリーが語った証言から、事件の状況を確認しておこう。
3月13日の午前1時頃、モースリーは家を出て、車で街を流して「狩り」の標的を探しはじめた。
そうして1時間ほど街を流したころ、車を運転するキティ・ジェノヴィーズに目をつけた。モースリーは彼女を標的にしようと決めて、車であとをつけた。
ジェノヴィーズはクイーンズ地区のキューガーデン駅付近に到着し、いつもと同じように線路と併走するように伸びているオースティン通りに車を停めた。そして、車を出て、そこから30メートルほど離れた位置にある自宅アパートへと向かった。
彼女のアパートは通りに面して建てられていたが、出入り口は裏側にあった。彼女は通りを曲がり、アパートの入口へと向かった。その通りは街灯が少なく、あたりは静まりかえっていた。
モースリーはジェノヴィーズが通りを曲がったのを見ると、オースティン通りで車を止め、先回りしてアパート近くにある駐車場に身を潜めた。
ジェノヴィーズはアパートの入り口まであと少しというところで、駐車場に男がいてこちらを見ていることに気がついた。
彼女は身の危険を感じ、来た道とは違う方向に曲がり、路地に入った。その路地の先には警察署に直通電話をかけられる電話ボックスがあった。おそらく彼女はこの電話で助けを呼ぶために向かったのだろう。
だが、モースリーにすぐに追いつかれ、捕まってしまう。モースリーは大型の狩猟用ナイフでいきなり彼女の背中を刺した。
ジェノヴィーズは悲鳴を上げた。付近にあったマンションのひとつの部屋の明かりがつき、住人が窓から顔を出した。
それに気づいた彼女は大声で助けを求めた。「助けて!刺されたの!」。
その悲痛な声を聞き、住人はモースリーに「おい!その女性から手を離せ!」と警告した。
モースリーは彼女から離れると、オースティン通りの方へと足早に向かった。