彼女は激痛が走る背中の痛みに耐えながら、自宅アパートへと急いだ。
だが、マンションの明かりが消えると、それを見計らっていたように、モースリーが戻ってきて、彼女は捕まってしまう。モースリーは再び彼女の背中を刺した。
彼女は前回よりもさらに大きな声で叫んだ。「助けて!殺される!殺されてしまうわ!」
今度は付近のマンションのいくつもの明かりが点いた。
モースリーは逃げだし、車に乗り込むとその場をあとにした。彼女はおびただしい量の血を流しながらも、懸命に自宅アパートへと向かった。
まっすぐ歩くこともおぼつかないような足どりで、ようやくアパートの入口にたどり着いた。
だが、まだ悪夢は終わっていなかった。モースリーは逃げたことを装い、現場にすぐに戻ってきていたのだ。
アパート近くの駐車場に車を止めると、彼女がよろめきながらアパートの中に入っていくのが見えた。
彼女はアパートの一つ目のドアを空け中に入った。二つ目のドアを開けるとそこでへたりこんでしまった。
そうして部屋に戻るための体力の回復を待っていたとき、目の前のドアが開いた。そこに、モースリーが立っていた。
彼女は持てる限りの、精一杯の声で叫んだ。モースリーは彼女に近づくと、ナイフで彼女の腹や胸、喉などを刺した。
モースリーは、彼女がもうたいして動くことを出来ず、叫び声すら上げられなくなったことを悟ると、彼女に性的な暴行を加えた。そして、彼女の財布から中に入っていた49ドルを抜き出すと、その場をあとにした。
警察に最初の通報が入ったのは、モースリーが立ち去ったあとの午前3時50分ごろだった。警察は通報からわずか2分で到着した。
ジェノヴィーズは救急車で運ばれたが、回復の見込みはなく、病院で息を引き取った。もし、もっと早く通報されていれば、ジェノヴィーズが助かっていた可能性は十二分にあった。