レースは前述したクロウハーストを含む5名の他に、さらに4名が参加し、総勢9名のレースとなっていた。
参加者達から送られてくる無線連絡を元に、随時レースの状況が報道された。
地球を周回するコースともあり、レースは過酷を極めた。序盤からリタイアする参加者が続出し、12月には9名の参加者のうち5名が脱落する。
この時点で残るはロビン・ノックス=ジョンストン、ベルナール・モアテシエ、ナイジェル・テトリー、ドナルド・クロウハーストの4名、3人の強豪と1名の新人というレース展開になっていた。
クロウハーストはレース序盤から快調に飛ばした。スピードを優先させた設計が功を奏したのか、一日に390キロもの距離を進めたとの報告がもたらされた。これは帆船の一日あたりの渡航距離の世界新記録であった。
「生まれてからこれまで、これほどのスピードで船を進めたことはなかった。波の状態が良かったのでスピードを維持することが出来た。とにかくベストを尽くしているよ」
とのクロウハーストの無線連絡が送られてきていた。
この躍進は新聞でも取り上げられ、クロウハーストはダークホースから、一挙に優勝候補の一角に加わることになった。
クロウハーストは出港が遅れたため、ゴールデン・グローブ賞の栄誉を手にする可能性は低い状況にあった。
それでも、最も早い期間で到着した者に与えられる5000ポンドの賞金は、十分手に出来る可能性があった。
そうして、クロウハーストが飛ばす中、優勝候補の1人モアテシエが走行不能の状態に陥り、リタイアすることとなった。これでレースは3人に絞られた。