オロール社の事務所で意気消沈するドレフュス派の中心メンバーのもとにある男が訪れた。クレマンソーは男の話を聞き、顔色を取り戻した。
裁判から2日後、オロール紙の一面に衝撃的な言葉が躍った。「われ弾劾する!フェリックス・フォール大統領に告ぐ」と題されたドレフュス事件に関する長文の告発文が大々的に掲載された。
この告発文を書いたのは小説家のエミール・ゾラ。フランス自然主義文学の黄金期を築いた中心人物で当時のフランス文学界を代表する人物であった。
ゾラはかねてからドレフュスの裁判に疑問を持っていた。そしてその渦中でエストラジー無罪の判決が出たことに怒りを燃やし、クレマンソーにこの告発文を掲載してもらえるよう持ち込んだのであった。
告発文にはエストラジーを無罪にするための裏工作があったとして、裏工作を行った人物の実名までもが克明に記されていた。さらに、「このことで自分を告発するのならやってみるが良い」とまで書かれていた。
ゾラは政府から訴えられることも辞さない覚悟でこの長大な告発文を書き上げたのであった。
これは大論争を引き起こした。ゾラが大統領を名指してまでこのような告発を行ったからには、陸軍は本当に真実を隠蔽しようとしているのではないかとする見方が急速に広まっていった。