一方イギリスを出たキャロラインは、虐げられた生活から解放され、今まで感じたことのなかった開放感を満喫していた。
誰に気兼ねすることなく、様々な人種・階級の人々と会話し、自由に移動できる生活に元気を取り戻していた。
キャロラインは故郷ブラウンシュヴァイクに戻り、そこからドイツやイタリアを回り、さらに地中海の国々などにも訪問した。
その旅はイタリアを中心にして各国を訪問する長い旅となったため、イタリア語に堪能なお付きの者が必要になった。
その役を担うことになったのは、バルトロメオ・ベルガミという名のイタリア人であった。ベルガミは元軍人で、ある貴族の推薦によってキャロラインと共に旅の従者に加わることになった。
ベルガミは非常に有能な男で、キャロラインもその働きを鑑みて、侍従長の権限を与え、旅の様々なことを取り仕切らせるようになった。
二人は次第に親密になり、キャロラインは自分の首飾りをふざけてベルガミの首にかけ、それをベルガミがキャロラインに付け返す、そんな親密さを疑わせるような行動が目撃されるようになった。
キャロラインにとってそれは、あくまでも信頼を置く人間に対する一種の親愛を込めた行動に過ぎなかったのかもしれない。
しかし、この行動は後々までキャロラインを苦しめることになっていく。
前述した通り、キャロラインにとってこの旅は、虐げられ、抑圧された生活から抜け出すための手段であったが、その旅もキャロラインが考えているような、安泰のものではなかった。
イギリス王室からのスパイが彼女の旅を監視し、イギリスへ密かに報告していたのである。そのスパイはハノーヴァー公国の貴族、フリードリヒ・オムプテーダと言う名の貴族であった。
オムプテーダは何食わぬ顔で、度々キャロラインの元を訪れては、お付きの者達を買収し情報を得ていた。
この策略はキャロラインの部屋が荒らされていたことを掴んだ、イタリアの地元警察の調べによって、キャロラインも知ることになった。
だが、すでに時は遅かった。オムプテーダの報告によって、ミラノ委員会というキャロラインの素行に関する調査機関が発足しており、キャロラインを王妃から失墜させるべく動きだしていたのであった。