カルトと呼ばれる狂信的な宗教団体による事件は、時代や場所を問わず多数存在しているが、そのなかで、近年、世界的にも大きな衝撃をもたらせた事件のひとつが、1994年に起きたオウム真理教による「地下鉄サリン事件」であった。
我が国で起きた事件でもあり、その衝撃は読者の多くの方々も身を持って体感したことであろう。
実はこの事件の半年前、同じように世界中に激震を走らせたカルト教団による大事件が、ヨーロッパで起きている。
それが今回紹介する「太陽寺院事件」である。
日本でも事件直後の一報は新聞各紙で報道されたのだが、数ヶ月後に阪神大震災が起き、さらにその数ヶ月後に「地下鉄サリン事件」が起きたことで続報がほとんど伝えられることが無かったため、日本での認知度は低いままになっている事件である。
だが、本事件は「地下鉄サリン事件」と同じようにヨーロッパの国々にカルト教団の脅威をまざまざと知らしめた事件であり、見方によっては「地下鉄サリン事件」以上の戦慄を走らせた事件であった。
そこには、ヨーロッパの中世史やヨーロッパ社会が内包する闇の部分とも関係する、ある事実が垣間見えるだろう。
今回は1994年という世紀末や千年紀末に位置づけられる年に起きた事件の背後に何があるのか、その謎に迫っていきたいと思う。