あれほどの過酷な探険を経験したフランクリンであったが、探険に対する意欲は衰えるどころか、ますます旺盛になっていった。

1825年、ふたたび陸路による探険に出発し、踏破区域をさらに広げることに成功する。一方のパリーも、フランクリンと競うように北極点の到達に向けて出発し、北緯82度45分の地点に到達し、当時の最北緯到達記録を打ち立てることに成功した。

1828年、フランクリンとパリーは揃ってナイトの称号を与えられた。フランクリンは同年ジェーン・グリフィンと結婚する。フランクリンは公私ともにこれ以上ないほどの充実した日々を送っていた。

イギリス中を熱狂させた北西航路と北極点への探険隊派遣だったが、ここで途絶えることになる。

このころのイギリスは国家財政的に厳しい状況にあり、莫大な費用がかかる探険事業に国費を回せる余裕がなくなっていたのだ。

フランクリンは外地勤務に就くことになり、1836年にタスマニアの副総統に就任した。それは英雄と呼ばれたフランクリンに見合う、栄転とも言える処遇であっただろう。

しかし、事務仕事ばかりの副総統の地位は退屈なだけで、フランクリンにとってまるで満足出来るものではなかった。

生と死が隣り合わせの局地での冒険だけが、フランクリンを満足させることが出来る場所だった。

再び探険に出たいという意欲が、フランクリンの中でマグマのように沸き立っていた。