この実験で明らかになったのは、他人が危機的状態に陥ったときに、それを見聞きした人間が助けるかどうかは、周囲の目撃者の存在や関係性に左右されるということだった。
ラタネとダーリーはより実験の信頼性を上げるために、他の状況でも実験を行っている。
女性が危機的状況になる実験と同じような状況を使って、スタッフが机の上に置いていた参加者への謝礼用のお金を、さくらの被験者が盗んでしまうというケースや本物の酒店で、さくらの人間が商品を持ち去ってしまうというケースでも実験が行われた。
これらのケースでもやはり女性が危機的状況に陥ったケースと同じ結果となった。つまり、被験者が1人の場合が最も事態をスタッフや店員に報告するケースが多く、被験者の数が複数になると報告する確立は低くなった。
こうした実験の結果を受けて、危機的状況の中で人間が行動するかどうかは、他の目撃者の存在や関係性が、影響を与えるということが裏付けられることになった。
だが、これらの実験で検証することが出来たのは、少年が電車内で刺されたり、電話交換手が襲われたケースのように、被害者の周囲で直接事件を見聞きした人間がいた場合である。
キティ・ジェノヴィーズ事件の状況は異なっていた。ジェノヴィーズ事件でも、目撃者は自分以外にも他に目撃者がいたことを知ってはいたのだが、それぞれが自分の部屋の中にいるという状況にあり、これまでの実験の結果を参考にすることは出来ても、そのまま当てはめることは出来なかった。
そこで、次にジェノヴィーズ事件を想定した実験が行われることになった。