警察による捜索が行われ、状況から何らかの理由でこの地で車を降りたアガサが、生い茂る草に足を取られ、丘の下に転落したのではないかと考えられた。
丘を中心に付近のありとあらゆる場所に捜索隊の手が入った。特に重点的に捜索されたのが、付近にあるサイレント・プールと言う名の池であった。
ここはある兄妹が死亡した伝説のある場所で、アガサの小説のヒロインが自殺する舞台となった場所でもあった。
アガサがここで入水自殺を図ったことも考えられたため、ダイバーまで投入され捜索が行われたが、何も発見されなかった。
そればかりか、車が置かれていた周囲のどこを探してもアガサは見つからなかった。
女流作家失踪のニュースはすぐに新聞で報道されることとなった。
当時のアガサは推理小説6作目の「アクロイド殺し」が、そのあまりに衝撃的な結末から、文壇で論争が起きるほどの注目を浴びていたが、まだ現在のように広く国民の間で知れ渡るほどの存在では無かった。
そのため、アガサの人となりがまず紹介され、それと共に様々な憶測が取り沙汰された。
創作活動に打ち込み過ぎて精神をおかしくしてしまったのではないかというものや、車が乗り捨てられていた場所で暴漢に襲われ、殺されてしまったのではないかというものなど、どの新聞でも盛んに記事にされるようになっていく。
実は失踪直前に、マスコミにはまだ明らかになっていなかった、アガサの人生に関わるある大きな問題が発生していた。