仮にアガサが自作自演を行ったとして、その理由とはなんだったのであろうか。
事件から70年後、オーストラリア生まれの作家ジャレッド・ケイドは、自身の著作で事件はアガサが自作したものであったとして、その理由をも説明している。
この著作「なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか?」は、アガサの生涯にわたる親友であったナン・ワッツの親族などに取材し、その証言を元に書かれたものだが、アガサが失踪したのは、アーチボルトへのある種の当てつけであったとしている。
アガサが失踪した日の翌日から、アーチボルトは浮気相手のナンシーと旅行に出かける予定であった。
アーチボルトとの離婚が決定的になったアガサは、非常に大きなショックを受けながらも、自分が失踪することでアーチボルトは嫌疑を持たれ、不快な思いになって旅行どころではなくなるだろうと考えた。
この計画には重要な協力者がいた。それがナンであった。事件の日、アガサが家を出てまず向かったのはナンの家だった。
ナンに離婚が決定的になったことを伝え、この計画を打ち明けた。ナンもアガサと同じように夫と不仲の状況だったこともあり、アガサが置かれている状況に同情し、協力を買って出た。
二人は計画の細部を練り、3~4日間アガサはハロゲートで身を隠すことを決めた。
ナンはお金を貸し、このことは口外しないことを約束した。そして、アガサはニューランズ・コーナーであのような痕跡を残して車を降り、徒歩で駅に向かい、ハロゲートへと向かったのであった。
もちろん、「ニール」の名を使ったのは、夫に対するさやあてだったのである。