1988年のイギリス、ベビーフードやペットフードを製造する企業や販売店舗が脅迫される事件が立て続けに発生した。
犯人はそれらの企業に対し、同社が製造している製品に毒物を混入したものを送りつけ、同じ物を販売店にばら撒かれたくなければ、金を支払えと書かれた手紙が入った小包を送りつけてきたのである。
犯人がそれぞれの企業に要求した金額は10万ポンド以上と高額だったが、犯人はその金をまんまと手に入れることに成功し続けていた。
警察は一向に犯人の特定すら出来ない状態が続いていた。犯行が成功し続けていたのには理由があった。金銭の受け渡しが非常に巧みな方法で行われていたからであった。
犯人は脅迫した企業に金を金融組合の預金口座に振り込ませ、現金自動支払い機を使って引出していた。
当時の現金自動支払機にはカメラなどはまだ搭載されておらず、金を引出した人間を特定するのはかなり困難なことだったのだ。
犯人が指定した預金口座は夫婦名義の名前で作られていたが、この名義は偽名で犯人を特定することも出来なかった。
唯一警察が出来たのは、犯人が指定した3つの金融組合の口座のうち1つの預金口座だけに振り込みを限定することくらいだった。
これで、犯人が金を引き出せる支払機はイギリス全土で900台に限定することは出来たものの、犯人はイギリス各地の支払機で現金を降ろすことで、足をつかませなかった。