騒動の最中、脅迫された企業が10万ポンドの懸賞金を掛けて犯人の情報提供を呼びかけ始めた。
すると、「自分は犯人を知っている。懸賞金が振り込まれれば、情報を教える」と書かれた手紙が送られてきた。
この手紙に書かれていた懸賞金の支払い方法は、脅迫の時に使われたのとまったく同じ方法だったため、犯人が形を変えて金銭を手にしようとしていることが推測された。
フレミングは熟慮した上で、懸賞金を支払うよう企業に指示を出した。犯人が金の引き出しを再び始めれば、何らかの手がかりがえられるのではないかと考えたのだ。
ここまでの犯行はあまりにも完璧なものだった。しかし、フレミングは逆に完璧すぎる犯行に疑問を持ち始めていた。
なぜ、こうも作戦が失敗に終わるのか、こちらの手の内が犯人に漏れているのではないかと考えた。
そこで、ある作戦を実行に移した。フランスとイギリスの戦争で劣勢に立たされたイギリス軍が大逆転をした戦争の名前から「アジャンクール作戦」と名付けられたもので、捜査陣の中でごく一部の人間だけで捜査を続行し、周囲には解決の見込みがないことを印象づける作戦だった。