さらに、このような状況に陥った翌月には、飢えからくる狂乱状態から探検隊の内部で殺人事件まで発生する。
フランス系インディアンの隊員ミッシェルが、腹を満たす目的で仲間を殺害し、その肉を食べていたのである。
このことは何人かが殺害されるまで誰も気づいていなかった。殺された隊員達は精神的に追いつめられて失踪したものと思われていたのだ。
唯一、軍医のリチャードソンだけは、ミッシェルが腹を満たす目的で仲間を殺害している事実を掴んだ。
これ以上の被害の拡大を防ぐため、リチャードソンは密かにミッシェルを射殺する。そして、隊をパニックに陥らせないために、全てを自分の胸の中だけにしまっておくことにした。
壮絶な探険の行路もようやくあとわずかのところまで来ていたが、食料の枯渇は多くの隊員の命を奪い、まだなんとか持ちこたえている者たちを極限の状態に追い込んでいた。
唯一残された希望は最後の補給ポイントだけだった。ここに食料が補給されてなければ、全滅は免れない状況だった。
しかし、貯蔵庫はもぬけの空だった。軍医のリチャードソンは、もう帰還は無理だと判断したのか、ミッシェルが仲間を殺害し、その肉を食べていた事実をフランクリンに打ち明けた。
フランクリンはこのことに深いショックを受けた。絶望的な状況のうえに精神的なショックにまで襲われたフランクリンだが、希望だけは捨てなかった。
通訳のバックに単独で先行させ、原住民のイヌイットに助けを求めるという最後の賭けにうってでたのだ。
バックが先行してから1週間が経過したが、助けはやってこなかった。その間にもさらに死者がでた。さらに3日が過ぎようとしたころ、3人のイヌイットがフランクリン隊の元を訪れた。バックはイヌイットを捜し出し、救助に向かわせることに成功していたのだ。
全滅寸前だった隊は九死に一生を得て、なんとか帰国の途に付くことができた。
生き残った隊員は20名のうちわずか4名だけだった。