テイラーは、元は劇団に所属する舞台俳優であった。一時は役者稼業から足を洗い、29歳の時に結婚した妻と古美術商なども営んでいたが、役者としての夢が捨てきれず、妻と別れ、ドサ回りの舞台俳優として活動していた。
そうした地道な活動を経て、ハリウッドに進出できたのは40代になってからであった。ハリウッドに進出したテイラーはスタントを代役に立てることもせず、危険なアクションも自ら演じるほど、懸命に役柄をこなし、着実にステップアップを重ねていった。
そうして、次第に大役を任されるようになり、演出も手がけるようになっていく。そして、演出家としての才能も開花させるようになった。
役者として苦労した経歴が長かったためか、役者のコントロールが抜群に上手く、くせ者揃いのハリウッドの役者たちをその気にさせ、役になりきらせるのを得意とした。
そのため、テイラーの撮影現場では、問題が起きることも少なかった。当時のハリウッドは年間600本という相当なハイペースで作品を生み出していたので、そうしたテイラーの手腕は評価され、また重用されていった。そうして、いくつもの作品の監督を任されるようになっていった。
さらには、パラマウントのチーフ監督の地位に就くことになり、米国映画監督協会の会長にまで選ばれるようになった。
そうして、映画界で影響力をもつようになっていったテイラーだが、決して立場を利用して役者や部下に命令するようなことはなく、どんな人間にも熱心に語りかけ、良い映画を作り出すために、彼等の能力を引出すことに全精力を注ぎ込んでいた。
そのため、映画を撮り終えたあとのテイラーは、ほとんど鬱状態に近い状態になるほど消耗しきっていたという。まさに全身全霊で映画製作に挑んでいたのだ。