テイラーとその周辺の人間に対するゴシップ合戦が加熱する中、警察はある男を有力な容疑者としてあげていた。その男はエドワード・サンズと言う名のピーヴィーの前任の執事であった。
サンズはテイラーの執事になる前は軍隊に所属していたが、そこで詐欺や横領を重ねていた根っからの悪党であった。
そうした悪事が発覚したことで除隊させられ、その後テイラーの執事に就いていた。
最初のうちはサンズも真面目にテイラーの元で執事として働いていたのだが、テイラーがヨーロッパに旅行に行くため、一時的に家を空けると、ついに本性を現すことになる。
前科があることなど知らないテイラーは、サンズを信頼し小切手帳を預けて留守を任せていたのだが、この小切手帳を使って膨大な現金を振り出し、全てを自分の懐に入れていたのだ。
テイラーがアメリカに戻ってみると、多額の預金口座と共にサンズは姿を消していたのであった。
この頃からテイラーの元には不審な事件が相次ぐようになる。宝石類が盗まれたり、テイラーの本名が綴られた質札が届くようになった。
質札とは品物を質に入れたときに渡される札で、買い戻す時に必要になる証書のことである。つまり、盗まれた品物がテイラーの名義で質屋に入れられていたのだ。
その質札の筆跡を警察に調べてもらったところ、サンズの筆跡であることが明らかになった。
事件はテイラーが被害届を出し、警察がサンズを捜索している渦中でおきており、さらに事件の2日前、サンズはハリウッドがあるロサンゼルス周辺でも目撃されていた。
だが、事件の現場からは、サンズの犯行を裏付ける証拠は見いだせなかった。サンズならば犯行のあとに何か盗みそうなものだが、前述した通り、何も盗まれたものはなかったのである。また、サンズはマクリーン夫人が見たという男の風貌とも合致しなかった。
さらに、事件の2日前にロサンゼルスに姿を見せた以降は、サンズがこの近辺にいた節はなく、容疑者から外れることになった。
次に容疑者として名が上がったのはメイベル・ノーマンドであった。
ノーマンドはテイラーが殺害された時刻の直前までテイラー宅にいて、執事のピーヴィーはテイラーとノーマンドが激しく口論している声を聞いていたという話が新聞などで浮上したのだ。
そこに麻薬中毒者であるという話も加わり、ノーマンドは麻薬で酩酊中に口論になったことで、テイラーを殺害したのだという話がまことしやかに新聞などに書かれることになった。
だが、ノーマンドはテイラー邸を去ったあと、運転手と共に自宅に戻っており、そのアリバイが裏付けられたため、容疑者から外れることになった。
その他にも多数の容疑者などの名前があがるが、その誰もがテイラーを殺害した犯人には結びつかなかった。
結局、犯人は明らかにならず、事件は迷宮入りすることになった。90年以上が経過した今も真相は不明なままになっている。