いったい犯人は誰だったのか? 最も怪しい人物はミンターの母親、シャーロット・シェルビーである。
シェルビーは、当時、警察も容疑者として追っていた人物であった。彼女を知らべてみると、疑わしい事実を持つ人間であることが明らかになったのだ。
シェルビーは前述した通り、自らの力では果たせなかった夢をミンターに託している、いわゆるステージママであった。そのステージママぶりは偏執的とも言えるほどで、ミンターを学校にも通わせず、娘をスターダムにのし上げるためならば、どんな手段をも講じていた。
ミンターが6歳の時にある舞台での大役をいとめると、さらに上を目指すため、娘をハリウッドに進出させる。シェルビーの思惑通り、ミンターは14歳で早くも映画に出演し、18歳のころにはすでに30本近い映画に出演するほど注目を浴びる新人女優になっていた。
1918年には130万ドルにもなる大型契約を映画会社と結ぶことになるのだが、シェルビーは契約金の30%ものマージンを懐に収め、さらに、ミンターに支払われる給料の全てを自分の財布に入れていた。
シェルビーにとって娘は夢を託す人間であると同時に、大金を生む大切な商品であった。ミンターの商品価値を守り、さらに金を得るためならどんなことでもした。
実は、ミンターは15歳の頃に35歳の俳優と恋に落ち、密かに2人だけで結婚式を行い、さらに子供も身籠もっていた。このことを知ったシェルビーは相手の男優を「殺してやる」とののしり、烈火の如く怒りをぶちまけた。
だが、その男優は当時英国にいたため、どうすることも出来なかった。結局はメアリに中絶手術を強制させ、二人の関係が明るみに出るような証拠を全て捨てさせることで一応の決着をみることになった。
その後は、メアリに今までに以上に厳しい監視を行ようになった。だがメアリは恋愛に憧れる年頃で、言い寄る男も絶えなかった。
男性との関係が浮上するたびに、シェルビーは気が狂わんばかりに怒り、彼等に「娘に手を出したら殺す」と脅迫まがいの忠告を与えていた。
メアリが結婚などしようものなら、シェルビーの懐に金が入らなくなる。そのことを危惧して、シェルビーはここまでの過剰な行動を取るようになっていたのだ。
こうした強欲で偏狭的な人間であったことは、彼女から脅迫を受けたハリウッド関係者を始め、業界内では有名な人物であった。
そのためシェルビーは警察に早い段階から目を付けられていたのだが、警察の捜査の重点はサンズやノーマンドにおかれ続けた。