1930年代、アメリカのマフィアは大都市を中心に活動し、それぞれの地域には大物マフィアたちが君臨していた。
シカゴには「スカーフェイス」と呼ばれたアル・カポネ、サンフランシスコには当地のマフィア間の抗争を勝ち抜きボスの座に君臨したばかりのフランチェスコ・“フランク”・ランザ、ニューヨークは5大ファミリーを束ねるサルヴァトーレ・マランツァーノといった具合に各大物マフィアが大きな権力を持ち、賭博や強請(ゆすり)、売春、高利貸しなどの事業を行いながら活動していた。
この頃、マフィアがさらに大きな権力を持つにいたる、ある法律が制定される。それは酒類の製造・販売・輸送を禁じる禁酒法であった。
禁酒法は主に大都市などの風紀の乱れを深刻に受け止めた、地方のキリスト教婦人団体などの活動によって生まれた法律であるが、有史以前から続く酒の風習をそう簡単に断ち切れるものではなく、法律によって禁じられたあとも、酒を渇望する人間は数多く存在した。
そうした需要に対し、酒を供給したのは法の外にいるマフィア達だった。アメリカの各地で、マフィア達は密造酒や海外の酒を手に入れては売りさばき、これが凄まじいまでの利益をあげ、マフィアが様々な活動に手を広げる強力な資金源となっていった。
この頃、後にアメリカの裏社会に大きな変革をもたらせる1人の男が現れる。男の名はチャールズ・ルチアーノ。彼の登場がマーダーインクを生むきっかけともなっていくのであった。