こうして、イギリス国民がフランクリン隊の消息について興味を失っていくなか、カナダのハドソン湾商会の医師ジョン・レイ博士から衝撃的な発表がもたらされた。
レイ博士は北西航路の南側に位置するカナダ北端部のグレイト・フィッシュ・リバー付近を航海中に遭遇したイヌイットから、30~40名の白人の集団が死亡していたのを見たとする証言を得た。
さらに、そのイヌイット達からフランクリン隊の隊員たちの名前が刻まれたケトルや鍋、食器などを手に入れていた。
そして、レイ博士はその食器類の中に、切り取られた人間の肉と思われるものが残されていたと言及した。つまり、フランクリン隊が仲間の肉を食べていたことが明らかになったのだ。
食料の枯渇に苦しんだ隊員たちが同士討ちの果てに、仲間を食べてしまったとする説まで浮上する。
この報告はイギリス中に大変なショックを巻き起こした。フランクリンの陸路探険でも、同様の事件はあったが、インディアン系の他国民が起こした事件として、イギリス国民は納得することが出来たのであった。
自国民の、それもナイトの称号まで与えられた英雄率いる隊が、仲間の肉を食べていたとする報告は、世界随一の文明国であることを誇りにするイギリス国民に、とてつもない衝撃をもたらせたのであった。