3つめは、エヴァンジェリスタ自身による犯行説である。
エヴァンジェリスタはイタリアからの移民であったが、アメリカに渡って最初に訪れたペンシルヴァニア州で、アウレリウス・アンジェリーノと言う名の、鉄道職員で新興宗教の教祖でもあった人物と出会い、オカルト趣味が共通していたことから、懇意にしていた。
アウレリウスはたびたび頭の中に語りかけてくる「声」を聞いていて、それを自らの宗教の教義としていた。
しかし、ある時「家族を殺せ」との啓示を受け、自分の子供2人を斧で殺してしまっていた。裁判では精神異常と判断され、精神病院に入れられた。
エヴァンジェリスタはこのアウレリウスの影響を受けていたのではないかとされている。
前述したベニーの本には、何者かの「声」が聞こえ、その声に導かれ書いているのだとする記述があり、これはアウレリウスの影響だったと見られているのだ。
そして、その啓示は決まって深夜1時~3時の間に聞こえてきていたと語られていた。この啓示が降りてきたとする時刻はまさに犯行が行われた時刻と一致する。
つまり、ベニーにもアウレリウス同様「家族を殺せ」との啓示が降りてきて、殺害に及んでしまったのではないかと考えられたのである。
しかし、この仮説にはひとつ大きな問題がある。家族を全て殺したあと、ベニーはどうやって自分の首をはねたのかという点である。
何か特殊な仕掛けでも作らない限り、普通は自分で自分の首を切断する事など不可能に近い。しかし、そのような仕掛けは現場には残されていなかった。
ベニーに宿った悪魔の力がそれを可能にしたのであろうか?
4つめはアウレリウスの犯行説である。
精神病院に入れられていたアウレリウスだが、その後、2度脱走し、2度とも捕らえられて精神病に送り返されていた。実は事件発生当時に3度目の脱走を図っていたのだ。
斧による犯行である点でアウレリウスの過去の犯罪と共通点があることや、犯行が非常にオカルトめいた方法で行われていたこと、また、ベニーが深夜に家の中に招き入れていることからも状況的に一致する。
しかし、脱走後のアウレリウスの行方はわからず、完全に消息を絶ったため、この説を立証することは出来なかった。
事件が起きたデトロイトでは、1920年からの90年間で、25000人以上もの人々が殺人事件の被害者となり、死亡している。
その中に含まれている、本事件の6人の犠牲者を生んだ犯人は、今も不明なままである。