事件の中には、ありきたりの内容に思われるものが、誰もが予想だにしなかった衝撃的な結末を迎えるものが存在する。
1888年のフランスで起きたこの事件は、その最たる例の一つである。
フランスの北西部に位置する港町ルアーブル近郊の海岸で、銃で撃たれた痕跡のある遺体が発見された。
被害者はアンドレ・モネという名のパリで会社を経営している男だった。死体のすぐそばには、衣服がたたまれて置かれていたことから、夜間に海に泳ぎに来ていたところを射殺されたようだった。
銃弾と足跡が発見されたが、地元警察にとって殺人事件は手にあまるものでもあったため、すぐにパリ警視庁の助力を仰ぐことになった。
要請を受けたパリ警視庁は、休暇中の刑事ロベール・レドリュに連絡を入れた。
ロベール・レドリュは過去にいくつもの殺人事件を解決に導き、パリ警視庁でも名刑事の呼び声が高い男であった。