信者達の中には財産の全てを寄進し、仕事や家族を捨てて教団での生活に全てを捧げる人々もいた。
こうした人々の多くは「ゴールデン・サークル」と呼ばれる高位の地位を与えられ、教団内部で秘儀や魔術を執り行った。
その下には「クラブ・アルカディア」と呼ばれる階位が存在し、最下層は入信して間もない信者達で構成されていた。
これら3つの階層で教団は構成されていたが、さらに上部には「シナーキー」と呼ばれる最高階位も存在し、そこには「太陽寺院」とは異なる組織の人々が所属しているのだという。
「シナーキー」は報道機関に送られた文章にあった「薔薇十字の賢者達」を指していると思われるが、ディ・マンブロやジュレは自分たちも彼らに指導される立場にあり、教団の全ては賢者達によって決定されていると語っていた。
信者達の中には、夫婦や家族で入信した人々もいたが、彼等は指導者達の鑑定によって、波長が合う者同士に組み替えられ、戸籍上の夫婦とは異なる妻や夫を持たされることもあった。
こうした教団の体制は、他の多くのカルトなどでも用いられるものであった。だが、「太陽寺院」が巧妙なのは徹底した秘密主義を浸透させていたことにある。
教義はもちろんのこと、教団で見聞きした全てのことを外で語ることは固く禁じられており、それは、対外的にだけではなく内部にも徹底されていた。
教団にどのような人間が所属しているのか、どれほどの規模で何名が入信しているのか、そうした基本的な事柄すら信者達の多くは知らされていなかったのだ。
そのため、一連の事件で死んだ信者たちの遺族の中には、事件が起きてはじめて信者であったことを知った人々も大勢いた。
事件の起きたシェリー村やサルヴァン村の人々、さらにはスイスの警察にすら教団の真の活動を隠し通せたのも、この秘密主義の徹底が浸透していたからであった。