「太陽寺院」はカルトの中でも成功した組織だといえるだろう。それがなぜ、悲惨な最期を辿ることになったのだろうか。
それは、自己矛盾に端を発する体制の崩壊が起きたためだと言われている。
黒幕のディ・マンブロと教祖のジュレは、強固な体制を持つ教団を造ることに成功したが、その内実はディ・マンブロやジュレが己の欲望を満たすためのものであった。
ディ・マンブロは巨万の富を得てその資産を自分の金として流用し続け、ジュレもその恩恵に預かって、ディ・マンブロは数千万ドル以上、ジュレは数百万ドルの個人資産を所有していたと目されている。
さらには、信者の女性達とベッドを共にし、ディ・マンブロはその中のひとりの女性との間に出来た1人の女児を「宇宙の子」だとして信者たちに崇めさせた。
「宇宙の子」は性交を経ずに生まれ、彼女はテンプル騎士団の復活を意味する存在だと言われており、信者たちに見つめることさえ許さなかった(「宇宙の子」もディ・マンブロと同じくサルヴァンで死んでいたところを発見された)。
そうして特権を自分と周囲のごく限られた人間に与える一報で、信者達の多くは、体を壊すほどの重労働を課せられ、さらには夫婦で入信した信者は妻や夫さえ教団に奪われており、一部の人間はこうしたやり方に耐えられなくなっていた。
これまでは信者達の鬱屈が溜まる度に奇跡を見せ、教団に対する信仰を呼び起こしていたが、その神通力も効力を失いつつあった。
教団の欺瞞に毒されていたのは信者達だけではなく、指導者も同じだった。そうした信者達の変化に指導者たちは無頓着であり、そこに綻びが生まれていた。
信者たちが教団に対する不満を溜め込んでいくなか、最高権力者のディ・マンブロが信者の女性とベッドを共にしていることや、教団の奇跡に関する秘密が明るみに出てしまう。
当たり前だが奇跡には全て仕掛けが存在していた。扉が自動的に開くのは機械的な仕掛けが施されていたからであり、聖杯もホログラムで見せていた単なる映像であった。そうした仕掛けが見破られてしまったのだ。
さらに、「宇宙の長」もディ・マンブロの側近の女性が扮装しただけのもので、その衣装が信者に発見されてしまう。
全てはまやかしであり、それらを言葉と用意周到な雰囲気作りで奇跡だと信じ込ませていただけだったのだ。
信者をつなぎ止めていた奇跡のトリックが露見したことは致命的であった。目を覚ましたスイスの信者達は教団から脱会し、一部の信者達はディ・マンブロに対する訴訟を起こそうとその準備を進めていた。
教団の崩壊はもはやとめられない事態となっていた。だが、こうして様々な欺瞞が露見する前から既に崩壊は始まっていたのかもしれない。
これより前にもジュレはある失態をおかしていた。
教団はフランス領マルティニーク島に支部をもっていたが、ジュレは自分に預言の力が本当にあるとでも思っていたのか、この支部の信者たちの前で島に津波が襲来することを預言する。
この危機を回避するためには支部を移動する必要があり、そのためにはより多くの寄付が必要になると言って盛んに資金の提供を信者達に呼びかけていた。
しかし、いつまで経っても津波は来なかった。信者達は預言が実現しなかったことで、ジュレを弾劾する騒ぎになっていた。
ジュレが無理な資金集めに出たのも、教団が支部を広げ過ぎたのと、ディ・マンブロの投資が失敗したのも関係していたと言われている。つまり、豊富にあったはずの教団の資産がこの頃にはかなり危険な状態にあったのではないかと考えられているのだ。
指導者のふたりはスイスとフランスで致命的な失敗を犯し、続いてカナダでも問題が発生する。
それは前述した銃の不法所持問題であった。既存の価値観から離れ、自然界と密接につながっているはずの教団の教祖が、なぜ銃を所持しなければならないのか、カナダの信者も大きな不信感を抱いていた。
さらに、これに端を発したハイドロ・ケベック社の信者潜伏問題が発覚し、警察やマスコミからの追求に追われたことで、多くの信者が離れていった。
さらに、最高権力者のディ・マンブロは末期のガンを患っていた。こうした様々な要素が指導者たちを「死出の旅路」出る決意をさせたのだと考えられている。