事件を分析しようとする人間の中に、ビブ・ラタネとジョン・ダーリーという2人の社会心理学者がいた。
彼等もジェノヴィーズ事件に大きな関心を寄せた人間なのだが、彼等を惹きつけたのはこの事件だけではなかった。
当時、ジェノヴィーズ事件と似たような事件がいくつも起きていたのである。
例えば、ジェノヴィーズ事件と同じくニューヨークで起きたもので、電車に乗っていた17歳の少年が、男にナイフで腹を刺されるという事件が発生していた。
この事件では11人の乗客が目撃していたが、犯人が列車から立ち去った後も11人の人間は誰も少年を助けようとせず、少年は死亡した。
同じくニューヨークで起きたもので、このような事件もある。
電話交換手の女性が事務所の部屋で、1人で仕事をしていると、男が乱入し女性を強姦した。
女性は隙を見て逃げ出すのだが、多くの人間が通る街で、裸で助けを呼ぶ女性に対し、誰も助けようとせず、女性は追いかけてきた犯人に捕まり、再び事務所に連れ戻された(偶然通りかかった警官により、男はすぐに逮捕された)。
ラタネとダーリーは、なぜこのように、多くの人間が事件を目撃していても誰も助けないという事件がいくつも起きるのか、大きな関心を寄せていた。
そして、現代社会特有の他人に対する冷たさがこうした事件をもたらせたものだとする分析に疑問を持つようになっていた。