実験の結果は意外なものだった。この実験で、女性を助けるために最も行動を起したのは、被験者が1人きりの場合であった。
この場合、70%の人間が女性を助けるために、アコーディオンカーテンを開けて隣の事務所に移動したり、部屋を出て助けを呼びに行くという行動をとった。
続いて行動する確率が高かったのが、友人同士の被験者2人の場合だった。2人のうち、どちらかが行動に移したのは70%という結果だった。
この結果は1人の場合と同じだったとも思えるが、実質的には、一人きりよりも行動を起こした確率は少ないことになる。
2人のそれぞれが動ける状態だったので、1人きりの時の行動確率の数値を元に算出すると、91%のグループでどちらかが行動を起さないと同じ結果になったとはいえないのだが、この数値に留まることになった。
また、行動を起こすまでにかかった平均時間も、被験者1人のときよりも遅かった。
見知らぬ被験者2人の場合は、数値は一気に低下して、行動したのは40%、無関心なさくらの人間と被験者の組み合わせでは、わずか14%だけだった。
実験の様子は、気づかれないようにマジックミラー越しに観察されていたのだが、部屋にいるのが複数の場合、女性が危機に陥っている声を聞き、被験者は必ずもう1人の反応を伺っていることがわかった。
友人同士の場合は何が起きているのかを話はじめ、実際に助けるための行動に出るパターンが多かった。
見知らぬ被験者同士の場合は、女性の声を聞き、もう1人の被験者の表情をお互いが伺うような行動をとる例が多かった。
そして、それぞれが表情を読み取られたくないのか微妙な表情を示し、なかなか行動しようとはしなかった。
被験者と無関心を装うさくらの人間の場合も、被験者はもう一人の人間を確認するのだが、相手が肩をすくめるくらいの反応しか示さないのを見て、何も行動しないパターンが多く見られた。
実験後に行動を起こさなかった被験者に「もう1人の人間の存在はあなたに影響を及ぼしましたか?」と質問したところ、多くの被験者が「他人の存在は自分の行動に影響を及ぼさなかった」と答えた。
だが、見てきたように、複数の人間が部屋の中にいた場合、全ての被験者がもう1人がどのように考えているかを伺っていたのである。
これは、他人の考えで自分の行動を決めたということを認めたくないがために、このような答えが返ってきたのではないかと考えられている。