本事件やアーバックルの事件などで、ハリウッドに対する凄まじい批判が巻き起こっため、議員たちから映画には検閲が必要なのではないかという意見が噴出し、映画の検閲に関する法案が通される直前のところまで事態は進行する。
ハリウッドにとって、これは絶対絶命の危機であった。検閲が行われるような事態になれば、上映できる作品の幅は大幅に狭められることになる。もし、この法案が成立していたとしたら、現在のように、ハリウッドが映画産業の中心地として、繁栄し続けることにはならかったであろう。
検閲が回避されたのは、元郵政長官のウィル・ヘイズを会長とする、映画製作配給協会という自主規制団体が作られたからであった。
そして、通称“ヘイズ・コード”と呼ばれる、性描写などに関する演出上の規制や俳優が映画会社と専属契約を結ぶ際に、「スキャンダルになるような事態が起きた際には契約を一方的に取り消すことが出来る」という倫理条項が盛り込まれることになった。
さらに、ヘイズはハリウッド関係者の徹底した調査もおこなった。その結果、117名もの人間がハリウッドには不的確だと判断され、彼等はその私生活を新聞に暴露された上、ハリウッドを追われることになった。
こうして、ウィル・ヘイズはハリウッドにとって最悪の事態を回避した立役者となり、映画界の「ツァー」(皇帝の意)と呼ばれるほど、大きな地位を築くようになった。
しかし、ヘイズはウォーレン・ハーディングを大統領に就任させた功労者でもあったが、その際に収賄を行っていたことが明らかになる。
また“ヘイズコード”も実際にはあってないようなもので、過激な描写を持つ作品は公開され続け、実際にはほとんど機能していなかったと言われている。
ハリウッドから追い出された関係者達も、そのほとんどが既に一線を退いていた者ばかりで、ヘイズとハリウッドの首脳陣によって、体面を取り繕うための、都合の良いシッポ切りに使われただけなのではないかとも考えられている。
それでも、ハリウッドに対する批判は収束していき、ハリウッドは「黄金期」と呼ばれる1930年代を迎えるのであった。
こうしてハリウッドは威信を取り戻し、栄光の時代を迎えていくのだが、置き去りにされたものがあった。それは、汚名を着せられたままのテイラーに対する評価であった。
テイラーは悪徳にまみれたハリウッドの象徴とまで位置づけられたが、結局その汚名は払拭されることはなかった。
テイラーは出演作・監督作を合わせ80本以上の作品を生み出したが、アーバックルと同じように、フィルムが廃棄されてしまったのか、その作品のほぼ全てが失われてしまっている。
ハリウッドに吹き荒れたスキャンダルやそれに対する批判と比べると、事件の中心人物であったテイラーの本当の人物像には、ほとんど関心が寄せられなかった。そのため、テイラーが半生を注ぎ込んで作った作品は残されずに、ねつ造された汚名だけが残されたのであった。