普通に考えれば、このような出会い方をした二人が結婚という話しにはならないはずである。しかし、結婚話は着々と進んでいった。
なによりも、ジョージには借金の問題を早急に片付ける必要があった。さらに、ジョージの決断にはある人間の口添えもあったためだとされている。
その人間とはキャロラインをたしなめた女官のジャージーである。ジャージーはジョージの身の回りの全てを取り仕切る女官であったが、ジョージと肉体関係も持つ愛人の関係にあり、ジョージに対しかなりの影響力を持っていた。
また、ジャージーはかなり狡猾な性格の持ち主で、ジョージの結婚相手がキャロラインであれば、自分の立場は安泰なうえに、二人を操ることはたやすいと考えていたとも言われている。
こうして、ジョージとキャロラインの結婚は決まったわけだが、ジョージにとって、キャロラインはまるで受け入れられる存在ではなかった。
婚約期間に入ってもキャロラインに対する評価は好転するどころか、日増しに嫌悪感は膨らんでいった。
だが、借金で首がまわらないジョージに結婚を破談にする道は残されていなかった。そのため、冒頭の通り、ジョージは酒で正気を失った状態で式に臨んだのであった。
結婚後もジョージのキャロラインに対する態度は変わらなかった。むしろ、ますますひどくなり、病的なまでに彼女を避けるようになっていった。
「ベッドを共にしたのは初夜の時だけだ」ジョージは周囲にそう吹聴するほどであった。結婚の翌年1796年には二人の間に長女シャーロットが生まれる。
だが、子供を残したことで責務は果たしたとばかりに、ジョージは二人の住まいであったカールトンハウスには寄りつかなくなった。
そして、ジョージは正式には認められなかったもう1人の妻、フィッツハーバートとの同棲を始めてしまう。
さらに、この頃ジョージは病気を患い、弱気になって遺書を残しているが、その遺書の内容もまた、とても新婚早々の人間が書いたとは思えぬ内容のものであった。
その遺書には、「カールトンハウスにある全てのものを我が最愛の妻マリア・フィッツハーバートに贈る。娘の世話は父や母に託し、“皇太子妃と呼ばれている女性”にはなにひとつ関わらせてはならない」と書かれていた。