「ナビゲーター」の販売がある程度は成功していたとはいえ、まだまだ資金は足りず、クロウハーストは資金集めに奔走することとなった。
しかし、ヨット乗りとして満足な経験もない男に、おいそれと資金を出してくれるところはそうそうあるものではなかった。
方々をあたるが色よい返事をもらえず悪戦苦闘しているなか、朗報が舞い込んできた。
ナビゲーターの技術を買い取りたいという企業が現れたのだ。クロウハーストはすぐに売却を決め、8500ポンドの資金を得る事に成功する。
それでも、レースに参加するには資金はまだまだ不足していた。なによりも資金がかかるのがレース用ヨットの用意だった。クロウハーストは「ポット・オブ・ゴールド号」という名のヨットを持っていたが、とても世界一周レースに耐えられる代物ではなかった。
新調するにも資金が足りない。そこで、クロウハーストは誰かにヨットを借りられないかと考え、無謀にも世界一周を成し遂げたチチェスターに貸してもらえないかと頼み込んだ。しかし、その申し出はあっさりと断られてしまった。
クロウハーストがそうしている間にも時間はどんどんと過ぎ去り、刻一刻とレースの開催日は近づいてきていた。
もはや万策尽きたかと思われたとき、救いの手が差し伸べられる。スタンレー・ベストという名の実業家が、クロウハーストに資金提供を申し出たのだ。
ベストは以前にもクロウハーストに資金を融通したことのある人物で、一度はクロウハーストの申し出を断ったものの、これだけ壮大なレースに経験が無いながら挑もうとする姿をみて、スポンサーになることを決めたのであった。
このベストの資金提供によって、一挙に資金の問題はクリアになった。